※この作品は、AnotherDays発売前に書いたモノです。

 というワケで、原作でのミルファを完全無視した「発売前のみんなが考えていたミルファ」がメインとなっております。

 消すのももったいないので載せっぱなしにしておきますが、そこらへんご考慮ください。

 

メイドって?

 

 

「なんだ貴明。

 お前、今日も愛妻弁当かよ」

「違う、ミルファが作ってくれてるだけだって。

 何度言えばわかるんだ」

「へーへー、うらやましい話で」

「うらやましくなんかないって。

 自分が作った昼飯以外の物を食べようとすると、怒り出して手がつけられなくなるんだぞ」

 

 いつもの昼食時。

 今日は、俺に雄二に瑠璃ちゃんと珊瑚ちゃんの4人で昼食を食べていた。

 珊瑚ちゃんと瑠璃ちゃんは、今日はイルファさんのお弁当。

 雄二は購買のパンのようだ。

 そして俺は……

 

「いいじゃねぇか別に。

 そもそも、家にメイドロボがいて弁当作ってくれるってだけでもうらやましいっつーの」

「みっちゃん、貴明すきすきすき〜やから」

 

 俺の昼食は、ミルファお手製の弁当だった。

 なんで俺がミルファに弁当を作ってもらっているかというと、珊瑚ちゃん、瑠璃ちゃん、イルファさんのすれ違いから起こった騒動からしばらくたったある日

「今日から貴明のお世話をする事になった、HMX17bミルファです。

 よろしく!」

 と、ほとんど押し売りのような勢いでいきなりやってきたのだ。

 

「ところで、みっちゃんの調子はどうなん?

 なんか物とか壊してない?」

 

 心配そうに失礼な事を聞く珊瑚ちゃん。でも

 

「大丈夫だよ。むしろ、すっごく助かってる」

 

 そんな勢いでやって来たミルファだけど、彼女が来るまでは手抜きじみていた家事も面倒くさくて買っていた昼食も、全てこなしてくれている。

 ミルファに頼りっきりというのも問題なのだが、ミルファ本人が

「貴明のお世話はあたしの仕事なんだから、誰にも譲らないよーだ」

 と言ってやらせてくれないのだ。

 っていうか、やりたくてもやるところが残っていないけど。

 

「ミルファちゃんと言えばさ、俺、前から気になってることがあるんだけど」

 

 無意味に手なんて上げながら、雄二が唐突に

 

HMシリーズって、なんでヘッドドレスつけてないんだ?」

 

 ワケのわからない事を言い出した。

 ヘッドドレスっていうと、メイドが頭につけてるアレか?

 

「メイドなのにヘッドドレスつけてないってのが、前から違和感あってさ。

 一度聞いてみたかったんだけど、知ってそうな知り合いなんていなかったしさ。

 で、珊瑚ちゃんなら何かしってるかなぁと思ったんだよ」

「雄二、それってただの、お前のメイドに対するこだわりじゃ……」

「でも実際、つけてるイメージあるだろ?」

 

 まぁ、確かに……ね。

 

「それで珊瑚ちゃん、なんでか知らないかな?」

 

 そう聞かれた珊瑚ちゃんは、首をかしげながら

 

「そういえば、なんでやろな。うちは外観の基準とか知らんから……」

 

 そう答えた。

 なるほど、システム製作者の珊瑚ちゃんが外観の事を知ってるはずは無いか。

 

「う〜ん、やっぱりそういうのは、直接聞くのが一番やな」

 

 へ? 直接って?

 

「みっちゃ〜ん、たかあきが浮気しとるよ〜」

「はい?」

「さんちゃん、何わけのわからんこと――」

 

 今まで黙っていた瑠璃ちゃんがツッコミ終えようとしたその時。

 

「たかあきぃぃぃぃぃぃぃぃっっ!!」

「うおわっ!?」

 

 突然屋上の柵を飛び越えてきた何かが、俺につかみかかってきた!

 

「たかあきのバカッ、浮気なんて赦さないんだから!

 相手は!? 珊瑚様、たかあきの浮気相手はどこ!?」

「みっちゃん、貴明死にかけとるよ?」

「へ?……あ、ご、ごめん貴明! 大丈夫!?」

 

 つかみかかってきたのは、家で留守番してるハズのミルファでした。

 

 

 

 

 

「ヘッドドレス?」

 

 浮気が誤解……というか、ミルファを呼ぶための方便だったことを知って謝り続けるミルファをなんとかなだめたあと。

 珊瑚ちゃんに「危ないから二度とするな」と釘を刺したり、ミルファがいるはずの俺の家からこの数秒間でどうやって学校まで来た、そもそもどうやって屋上まで飛んできたのか追求しようとしたらはぐらかされ、俺達の話題はやっと本題に戻った。

 

「うーん、あたしにもよくわからないや。

 なんでつけてないのかな……」

 

 どうやら本人にも分からないらしく、ミルファは首を傾げてしまった。

 

「ごめんね、役に立てなくて」

「いや、別に意味があって聞いたわけじゃねーから」

 

 心底申し訳なさそうな顔をするミルファに、雄二はどうという事はないさという態度をみせる。

 けど、表情からはホントは残念だったというのがバレバレだ。

 

「ねぇ、貴明」

「ん?」

 

 ミルファが俺に心配そうな顔を向けてくる。

 

「貴明は、その……やっぱりメイドさんって、ヘッドドレスをつけてるべきだと思う?」

「え? うーん……」

 

 正直あってもなくてもいいと思うのだが、あんなもの。

 埃とかから髪の毛を守る役には立ちそうもないし、どうみても飾りでしかない。

 とはいえ、確かにメイドってアレをつけているイメージがあるし……

 

「つけるべきとは言わないけど、あってもいいんじゃないかな。

 邪魔になるとかそういう理由があるなら、話は別だけどさ」

「そっか、あったほうがいいんだ……

 雄二さん、ちょっと来て!」

 

 バヒュン!!

 

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 本人の答えを最後まで聞かず、ミルファは雄二の襟首をつかむと、そんな音を残して屋上の柵を飛び越えどこかへ消えていった。

 

「さんちゃん、ミルファの出力ってイルファより高くなっとるん?」

 

 瑠璃ちゃんの質問に、珊瑚ちゃんは首をかしげながら

 

「ううん。

 みっちゃんのボディの出力は、性格の都合でいっちゃんやしっちゃんより低めにしてあるよ?」

 

 そう答えた。

 

「出力抑えても屋上まで飛び上がってくるのかあいつは」

「みっちゃん、貴明のことすきすきすき〜やから」

 

 まぁ確かに、気合とか根性っていうのは時々限界すら超えた力を出すこともあるけど、これはそういう問題を超越してるだろ。

 いくら人間と同じにしか見えなくても一応ロボットなんだからさ、根性論持ち出すのはやめようよ……

 

「ところで、雄二はどこに連れてかれたんだ?」

『さぁ?』

 

 まぁいいか、と俺たちは昼食を再開する事にした。

 しかし、一度何かを思い込んだミルファは何をするかわからないからなぁ……

 

「珊瑚ちゃん、激しく不安なんですけど」

「だいじょうぶ、みっちゃんは貴明すきすき〜やから」

「だから不安なんだって……」

 

 大丈夫かな、雄二のやつ。

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

 結局雄二は戻ってこず、早退したと言ってゴマかしておいた。

 部屋の奥から、パタパタとミルファが出てくる足音がする。

 そして――

 

「おかえり、貴明」

「うわたっ」

 

 玄関に出てきたミルファを見て、俺は思わず転びそうになった。

 

「貴明、まだ何もないところで転びそうになる年じゃないでしょ」

「いや、そういう問題じゃないくてさ……」

 

 頭を軽く振りつつ、俺はミルファの方を指差し思わず聞いていた。

 

「何それ」

「え、これ?」

 

 そういってミルファが触れたもの。

 それは――

 

「なにって、ヘッドドレスでしょ?」

 

 ……えーと、それはわかるよ。

 そうか、あの後ミルファは、ヘッドドレスを入手するために雄二の家まで行ってきたのか。

 

「雄二さんに貸りてきたんだ」

 

 いや、ミルファの性格だと絶対に強奪してる。

 雄二も可愛そうに、秘蔵のコレクションの一角をとられるとは……

 

「えへへ〜。ねぇ、似合ってる?」

 

 そういってミルファは、その場でクルリと回ってみせる。

 

「……」

「えーっと、もしかして……似合ってない?」

 

 そのしょぼんとした声に、ハッと我に返る。

 

「いや、そんなこと無いと思うよ。

 すっごく可愛いし、似合ってると思う」

「ホント!?」

「ほんとほんと」

 

 実際、ミルファがメイドロボとかそういう事は関係無しによく似合っていた。

 もともとの元気が有り余ってる感じがほどよく押さえ込まれて、快活ながらおしとやかな印象すら受けさせられる。

 まさかヘッドドレスだけでこんなに変わるとは……

 

「そうだよね、貴明は女の子の服装とかにお世辞言えるタイプじゃないもんね」

 

 上機嫌なミルファはニコニコしながら俺のカバンを取り上げ

 

「せっかくだし、メイドさんらしく着替えとか手伝ってあげよっか?」

 

 本気の目でそう言った。

 

「いいよそんなの、着替えくらい自分で出来るって。

 だいたい、メイドって着替えとか手伝うもんだっけ?」

「さぁ、よくわかんない」

 

 おいおい……

 だいたい、ミルファが俺の着替えを手伝おうとするのは毎日のことだ。

 メイドなんて全く関係ない。

 他にも風呂に入っている時に背中を流したがるとか何だとか、最初のうちはエラく焦ったものだ。

 今はもう慣れちゃったけどさ。

 いや、なれるのも問題あるか?

 

「でも、ホントによく似合ってるよなぁ……」

 

 そうつぶやきながら自室へと戻り、服を着替えて戻ってくる。

 そろそろ冷蔵庫の中身がヤバくなるハズだし、ミルファに買い物に誘われる頃かな、とか考えていると

 

「……」

 

 ミルファが真剣な表情で何かを考え込んでいた。

 

「やっぱり、そうなのかな……」

「何がやっぱりなんだ?」

「うきゃぁぁっ!?」

 

 俺が声をかけた瞬間、飛び上がりそうな勢いで驚いてくれた。

 

「なにそんなに驚いてるんだよ、こっちまでびっくりするだろ」

「あ、いや、そのね、えーと気にしないで、うん。大丈夫だから」

 

 いや、なにがどう大丈夫なのかさっぱりわからんぞ。

 

「それよりほら、せっかくだしお買い物に行かない?

 そろそろ冷蔵庫の中もピンチだし」

「ん〜、別にそれはかまわないんだけどさ……」

 

 なんかごまかされた気がする。

 まぁいいか、ミルファにも隠し事の一つや二つはあるだろうしさ。

 

「ほら、早く早く!」

「はいはい……って、外に出るならヘッドドレス外せ!!」

「え〜、せっかく気に入ってるのに」

「知るかーーっ!!」

 

 俺の本気の叫びが、家の中に響き渡った。

 

 

 

 

 

 翌日

 

「というワケで、昨日はさんざんだったよ」

 

 昨日と同じ面子で食べる昼食。

 俺は、あの後ミルファの起こした騒ぎを三人に話していた。

 

「で、そのあとどうなったん?」

「あぁ、ミルファが『ヘッドドレスつけたままで外に出たい』ってゴネてさ。

 頼み込んで外でつけるのだけはヤメてもらったけど、家の中ではずーっとつけてるよ」

 

 一体何が気に入ったんだか。

 昨日も買い物から帰ってくるなり装着して、今日家を出るまでつけっぱなしだったし。

 

「ところで貴明。なんでミルファちゃん、突然ヘッドドレスなんてつけ始めたんだ?」

「さぁ、俺にはサッパリだ」

 

 そこが一番の謎だったりする。

 昨日はなんだかんだで聞きそびれたけど、家に帰ったら聞いてみるべきだろう。

 

「まぁ、しばらくすれば飽きると思うけどさ」

「あ、じゃあ飽きる前に写真とってくれねぇか?」

「あのなぁ……」

 

 キィッ

 

 不毛な話題に入る直前、誰かが屋上に上がってくる。

 何の気はなしに入り口の方を向くと

 

「あ、貴明みーっけ」

「ミルファ!?」

 

 そこにいたのは、なぜかうちの学校の制服を着たミルファだった。

 

「うわ〜、みっちゃんよく似合っとるよ」

「へへ。ありがと、珊瑚様」

 

 珊瑚ちゃんの言う通り、うちの学校の制服は彼女の赤い髪によく合っていた。

 同じ赤髪のタマ姉でも、ここまで似合ってはいないだろう。

 けど……

 

「なんでうちの学校の制服持ってるんだ?」

 

 ミルファがそんなのもってるワケがないし、借りる相手もいないだろうし……一体どうやって?

 

「あぁ、これ?

 学校に入ろうと思ったんだけど、いつもの格好じゃ入れないでしょ?

 だから、イルファ姉さんが隠し持ってた瑠璃様の制服二号を借り――」

「なんやうちの制服二号って!!」

 

 最後まで聞かずに瑠璃ちゃんが吼えた。

 

※瑠璃の制服二号

 イルファが密かに購入した、瑠璃が使っているものと同じサイズの制服。

 時々、瑠璃の知らない間に瑠璃本来の制服と入れ替えられているらしい。

 

「イルファァァァァァァァァァァァァアッッ!!」

 

 説明を受けた瑠璃ちゃんの怒号が、空へと吸い込まれていく。

 

「イルファ姉さん、瑠璃様ラブだから」

 

 いやミルファ、そういう問題じゃないだろ。

 

「あ、そんなことより雄二さん、ちょっと今日もお願いが――ってちょっと待った!」

 

 コソコソと逃げ出そうとした雄二が、ミルファに捕らえられる。

 

「もう、なんで逃げるのよ」

「なんでって……お、俺はイヤだぞ、もうこれ以上俺の宝をうばわれてたまるものか――」

「はいはい、とりあえず話は後で聞くから。

 それじゃ貴明、また後でね」

「ま、まて、俺の話を――」

 

 ドヒュン

 

 雄二がメイドロボであるミルファの頼みを拒否するとは、一体昨日どれだけひどいめに合わされたんだろう。

 まぁ、拒否したところで聞くミルファじゃないけどさ。

 

「貴明……ホントにミルファ、迷惑かけてへんやろな?」

「いや、いつもはもう少しマシなんだけどね……」

「ホンマか?

 イルファの妹なんや、口止めされとるだけで本当はいろいろやってしもとるんとちゃうん?」

「大丈夫だってば……」

 

 珊瑚ちゃんはよっぽど怒ってるのか、ミルファにまでその矛先を向けていた。

 イルファさんも、瑠璃ちゃんの事を好きなのはわかるけど、やっていい事と悪いことくらい区別つけようよ。

 制服勝手にすりかえるって、ただの犯罪だよ……

 

 

 

 

 

 その後、怒り狂う瑠璃ちゃんをなんとかなだめ、放課後になると同時にものすごい速さで自宅に向かって走っていった瑠璃ちゃんを眺めたりしながら、今日も平和に終わり――

 

「ただいま〜」

「お帰りなさいませ、ご主人様☆」

 

 ゴガンッ

 ヤバげな音を立ててすっ転ぶ俺。

 前言撤回、平和に終わってなんていなかった。

 

「あぁっ!? だ、大丈夫ですかご主人様!?」

 

 いや、それはこっちのセリフだって。

 

「ミ、ミルファ、その口調は一体なんだ?」

 

 頭を抑えながら、なんとかそう聞く。

 すると

 

「雄二様から、これがメイドとして正しい言葉遣いだと伺いましたが?

 一応、衣装も正式なものに変えてみたのですが」

 

 あ、ホントだ。

 最初の一言が強烈過ぎて気づかなかったけど、今日のミルファはヘッドドレスだけじゃなくてメイド服を着ている。

 なんかそのメイド服、前に雄二がうれしそうに見せてくれたヤツと似てるんだけど。

 いや、似てるんじゃなくて同じものなのか。

 雄二のヤツ、明日学校来れるかなぁ……

 

「そんなことより、お怪我はございませんか?

 ……少し、失礼します」

 

 そう言って、俺の頭に触れるミルファ。

 

「……お怪我はないようですが、気分が悪くなるようでしたらすぐにお申し付けください」

 

 いや、すでに別の意味で気分が悪いというか、頭が痛いんですけど。

 

「それではご主人様、お風呂とお食事、どちらを先になさいますか?」

「いや、どっちって……まだどっちをするにしても早すぎるだろ」

 

 部活にでも出てれば、帰ってきてすぐに食事ができるのはありがたいんだろう。

 あ、そういえばけっこう前にミステリ研に強制入部させられたような気が……

 ロクに出てないけど、あの後どうなってるんだろう?

 

「あ、その前にお召し物をお取替え――」

「自分でできるって、それくらい……」

 

 何がおもしろくてあんな事してるのかよくわからないけど、一つだけわかっている事がある。

 とりあえず……何を言っても無駄なんだろうな。

 

 

 

 で、その後。

 

「では、お召物をお取り換えしますね」

「だから自分でやるって!」

 

 俺の部屋まで着替えを手伝いに来たミルファに説教したり

 

「お食事とお風呂、どちらになさいますか?」

「ん〜、じゃぁ晩飯で」

「そ、その……ご主人様がお望みでしたら、わたしで――」

「人の話聞いてないだろお前!」

 

 完全に俺のセリフ無視してしゃべるミルファに説教したり

 

「ご主人様、あ〜ん」

「それはメイドのセリフじゃないっ!」

 

 メイドと新婚さんを混合してるミルファに説教したりして。

 

「はぁ〜……」

 

 風呂に入った俺はやっと、メイドモードのミルファから解放されていた。

 

「雄二……メイドのどこがいいのか、俺にはさっぱりわからないぞ」

 

 いや、あれが正しいメイドだとは思ってないけど。

 

「わからないといえば、ミルファも何が楽しくてあんなことしてるんだか……」

 

 ヘッドドレスだけじゃなく衣服までそろえて、あげくに口調まで合わせてきて。

 なんだかミルファがミルファじゃないみたいで、すごく対処に困るというか、イヤな感じがする。

 

「風呂から出たら、一回聞いてみるべきかな」

 

 そう思っていたら

 

「ご主人様、お背中お流しいたします」

「却下ぁっ!!」

 

 油断もスキもなかった。

 

「で、ですが、これもご主人様にお仕えするメイドとしての――」

「だったら命令、別命あるまで俺の部屋で待機してて!」

「え、その……ご主人様のお部屋で、ですか?」

「そう、俺の部屋」

 

 とりあえず、これでメイドとしての仕事は封印した。

 俺の部屋じゃする事もないだろうし、メイドモードのミルファなら俺が「命令」と言った以上従うだろう。

 

「……やれやれ」

 

 なんでミルファがメイドモードになってるのか、聞き出して辞めさせないとこっちが持たない。

 できればこれを最後の説教にしたいと思いながら、俺は風呂を出て自室に向かったのだった。

 

 

 

 

 

「……で、ミルファ。

 なんで部屋の電気が消えてるわけ?」

「え、えーと、その……」

 

 部屋に戻ったら、暗い俺の部屋でミルファがベッドに横たわっていた。

 

「その、よ、夜のお勤めを……」

「夜の勤め?」

 

 なんの事だかわからず、一瞬考え込み

 

「ちょっ、いや、おまっ……

 べ、別にそういう意味で俺の部屋で待たせたわけじゃ――」

 

 っていうか、それ本当にメイドの仕事なのか!?

 気が付いた瞬間の俺の顔は真っ赤になってたと思う。

 部屋が暗くて助かった……

 

「って、そんな事より。

 ミルファ、そこに正座!」

「え、は、はい!」

 

 あわててミルファが飛び起きる気配。

 電気をつけると、ベッドの上にちょこんと正座しているミルファがいた。

 

「で、単刀直入に聞くけど、一体何でメイドのフリなんてしてるんだ?」

「ふ、ふりじゃありません! 確かにいつもはメイドらしからぬ――」

「とりあえずメイド口調禁止」

「確かににいつもはメイドさんっぽくないけど、あたしだってれっきとしたメイドロボだもん!」

 

 あっさりメイド口調をやめるミルファ。

 ……このままメイドっぽい態度とか全部禁止すれば、それで解決したりしないだろうか。

 いや、それだと表面上は問題なくても中身が解決していない。

 

「じゃぁ、なんで急にいつものメイドっぽくしてみようと思ったんだ?」

「そ、それは……」

 

 言いよどむミルファの前に屈みこみ、正面から目を見つめる。

 

「なんで、急に、変えようと、思ったんだ?」

 

 一句一句区切って、もう一度聞きなおす。

 まぁ、どうせ唐突に思いついた遊びか何かだろうけど。

 

「だ、だって……」

 

 覚悟を決めたように顔を上げ、しかし小声でつぶやかれた理由は

 

「貴明が似合ってるって言ってくれたから……」

「……はい?」

 

 完全に予想外のものだった。

 

「だ、だからっ。

 昨日貴明、似合ってるって言ってくれたでしょ!」

 

 確かに言った。

「すっごく可愛いし、似合ってると思う」

 そう言った覚えがある。

 

「それで、その時の貴明がなんだか嬉しそうだったから……

 ヘッドドレスだけで嬉しそうにしてくれるなら、メイドさんの服を着たらもっと喜んでくれるのかなって思って」

「で、せっかくだから言葉遣いもそれらしくしてみようって思ったわけ?」

 

 俺の言葉にコクリとうなずく。

 

「貴明が嬉しいとあたしも嬉しいから、もっと喜んでくれるようにって思って……

 でも、今日は貴明にずっと怒られてばっかりで……」

 

 ショゲながらも続けられたその言葉に、昨日の珊瑚ちゃんの言葉を思い出す。

 

『みっちゃん、貴明すきすきすき〜やから』

 

 本当に、その通りだ。

 俺に喜んで欲しいというだけの理由でメイドになろうなんて、普通なら思わない。

 

「あのさ、ミルファ」

 

 なんと言っていいものかわからず、少しずつ言葉を捜していく。

 

「確かに、ヘッドドレスをつけたミルファは可愛かったよ?

 それはウソじゃない」

「でも貴明、今日はずっと怒ってたじゃない」

 

 別に怒ってたわけじゃないんだけどさ

 まぁ、ちょっと口調はキツかったかな?

 

「でも、今日のミルファはただのメイドだったろ?」

「ただの……メイド?」

「そう、ミルファじゃなくて、ただのメイド。

 ミルファはさ、メイドがなんで人の世話をしてるか知ってるか?」

「……それが、仕事だから」

「そう、その通り。

 じゃぁ、ミルファはなんで俺の世話をしてくれてるんだ?」

 

 その問いに、ミルファはしばし黙り

 

「……貴明のことが、好きだから」

 

 そう答えた。

 いつもなら恥ずかしいだけのその言葉が、今はとても嬉しく感じる。

 

「じゃぁ、ミルファはメイドになんかなっちゃだめだよな?」

「え、なんで?」

「なんでって……」

 

 こんなの、俺が言わなくてもわかりそうなもんだけどな。

 

「だって、ミルファは俺の世話を誰かにさせられてるわけじゃなくて、したいから俺の世話をしてくれてるんだろ?」

「で、でも……」

 

 まだ何か言いたそうな顔をしているけど、

 

「それに俺も、無理にメイドしてるミルファより、いつものミルファの方が好きだしさ」

「――あ」

 

 驚いたような唖然としたような、そんな表情を浮かべるミルファ。

 けど俺は、本当にいつもの元気が有り余っててちっともメイドっぽくないミルファの方が良いと思う。

 そう思っていたら

 

「……くすっ」

「な、なんだよ」

「だって、貴明が変な事言うから」

 

 変な事? 俺、何か変な事言ったか?

 

「だってほら、あたしメイドロボでしょ?

 なのに、メイドっぽくないあたしの方が良いって言うから」

 

 あー、確かに変な話かもな。

 

「じゃぁ、これからもメイドでやっていくか?」

 

 冗談交じりのその問いに、返ってきたのは

 

「ううん、もうヤメる!」

 

 弾け、輝くような笑顔だった。

 

 

 

 翌日

 

「じゃぁミルファ、行ってくるから」

 

 いつもどうり学校に行こうとする俺。

 あの後ミルファは、すっかりいつものミルファに戻っていた。

 ただ、ヘッドドレスだけは本当に気に入ったのか

 

「メイド服は返すけど……コレだけもらっちゃおうかな」

 

 なんて、雄二が聞いたら卒倒しそうな冗談も言っていたっけ。

 そんな事を思い出していると

 

「あ、待って待って!」

 

 あわてた様子のミルファが台所から飛び出してきた。

 

「どうしたんだミルファ、そんなにあわてて」

「どうしたって、大切な事忘れてたから」

 

 大切な事?

 何かあったっけな?

 

「……ハンカチとティッシュなら、ちゃんと持ってるぞ?」

「それは知ってるわよ。そうじゃなくて――」

 

 ニッコリと浮かべられた笑みは、果たして天使か小悪魔か。

 

「行って来ます、のキス」

「……」

 

 なんですと?

 

「貴明、あたしの事好きなんでしょ? だから行って来ますのキス」

「はい?」

「昨日言ってたじゃない、『いつものミルファが好きなんだ』って」

 

 いや、確かに言ったけど、それはそういう意味じゃないって。

 変にメイドを演じてるミルファより、いつもの元気なミルファのほうが良いってだけで――

 

「ほら貴明、早くしないと遅刻しちゃうよ?」

 

 考えている間にも、ミルファは少しずつ近づいてくる。

 

「そ、そうだな、早く行かないと遅刻するよな。

 というワケで、俺はさっさと行くから――」

 

 ガッ

 

 走り出そうとした瞬間、腕を捉まれてしまった。

 

「貴明、まだキスしてないってば」

「えーと……どうしてもするの?」

「……別に、どうしてもってワケじゃないよ?」

 

 そこまで言って、ミルファはシュンとうつむいてしまう。

 

「もしかして、あたしのこと……嫌いなの?」

「い、いや、そんなことは――」

 

 なんか前にも見た事あるぞこの光景。

 えーっとアレは……あぁっ、珊瑚ちゃんだ!

 キスするか嫌いかっていうこの極端な二択は、珊瑚ちゃんと同じなんだ!

 

「で、でも、貴明キスしてくれないし……」

 

 そういって肩を震わせはじめるミルファ。

 ――って、もしかして泣かした!?

 

「え、あ、いや、えーっと……わかったわかった!

 キスくらいするから、顔上げて泣きやめ!」

「え、ホントにしてくれるの!」

 

 パッとあげられたミルファの顔には、涙の跡――なんてものは存在しない。

 

「あっ、まさか泣きマネ!?」

「いやほら、あたし達って涙流せないし」

 

 し、しまった、そうだった……

 

「貴明〜、もしかしてキスするっていったのウソ?」

「……えぇい、こんなのこれっきりだからな!」

 

 不満そうな声を上げようとするミルファの唇を、自分の唇で塞ぐ。

 

「くっそー、これで勝ったと思うなよ!」

 

 いつか誰かが使っていたのと同じセリフを残して駆け出しながら、俺は一つだけ思っていた。

 

 絶対、これっきりになんて出来ないんだろうな……

 

 

 

 


 

 はい、綾崎初・ミルファSSでした。

 前の更新が3月19日でしたから、一ヶ月ちょいぶりの更新ですね。

 

 本当は草壁さんのSSを出す予定だったのですが、事情により断念せざるを得なくなりまして。

 それでもう一つ書きかけだったコチラを掲載することになったという次第です。

 

 さて、この話にある「HMシリーズはなんてヘッドドレスつけてないんだ?」という雄二の疑問ですが、実はアレ、私が実際に抱いた疑問だったりします。

 そこから考えていったら何故かこんな話が完成してしまいまして。

 そういう突発で思いついたお話ですので、ミルファファンの方々は私に向けている刃を収めてくれるとありがたいかなぁ、と。

 

 では、書く事を思いつかないあとがきはこの辺でオシマイとさせていただきます。

 また次のSSでお会いしましょう(私が何か書いて、なおかつ皆様がそれを見に来てくだされば、の話ですが)。





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