春休みが終わって数週間。
受験生になったとはいえ、全く変わらない坂道を登っていると、
「貴明〜!」
「ん? この声は……」
一年ほど前からほぼ毎日耳にするようになった声。
いつも強気で明るくて、でもちょっとモロいところもある。
一緒に夢を、未来を探すと誓った、そんな俺の彼女。
「おはよう由真――って、お?」
「はぁ、はぁ……や、やっと追いついた!」
遅刻寸前というワケでも無いのに全力でMTBを走らせてきたらしく、上がった息を整えながら片手を上げて挨拶する由真。
「まだ予鈴には余裕あるけど、何そんなに急いでるんだ?」
「あ、いや、これは、その、えーっと……」
由真は言いづらそうな顔をして、ゴニョゴニョと口ごもっている。
けど、なんか珍しく恥ずかしそうな顔をして、顔まで赤らめてるのはどういう事だ?
「わ、笑わない?」
「はい?」
笑うって、何のことだ?
「その、じ、実は――」
Challenge To Diet
「――はぁ? 太った?」
あれからしばらくゴニョゴニョしてた後、由真が言ったのはそれだった。
「こ、こら、そんな大きな声で言うな!」
「いや、そう言われてもな……」
宿題も何にもなく、気候も快適な春休み。
その春休みをのんべんだらりと過ごした結果、どうやらそれが体重という形で出たらしい。
だが
「すまん、ぜんっぜんわからん」
少なくとも、外見は全然変わってないと思うんだが。
「なぐさめなんていらないわよ。
昨日の身体測定で、実際増えてたし……」
「はぁ……」
とりあえず、外見は変わらずとも由真本人が気にする範囲で増えたらしい。
「というわけで貴明、ダイエット手伝って」
「……何で?」
「愛佳が言ってたのよ。『ダイエットは一人でやると大変だから、パートナーを作って二人でやるといい』って」
確かにそれは聞いたことがある。
一人だとついついサボっちゃったりするけれど、二人でお互いを見張りあえばサボるにサボれない。
でも、それは……
「二人ともダイエットしてなきゃダメなんじゃないのか?」
「何言ってるのよ、貴明も一緒にダイエットすれば問題ないじゃない」
「は!?」
俺がダイエット?
なにゆえ!?
「さぁ、さっそく始めるわよ!」
「えぇ〜?」
こうして容赦なく、俺を巻き込んだ由真のダイエットが始まったのだった。
ダイエットその@ 自転車ダッシュ
「ダイエットマシンに、自転車みたいなのってあるじゃない?」
「あぁ、よく通販で売ってるヤツな?」
エアロバイクとかXなんたらとか色んな名前は付いてるけど、結局のところ中身は宙に浮いてる自転車だ。
「だから、こうやって登下校時に全力で自転車を飛ばしてみるコトにしたのよ。
ほら、うちの学校って上り坂だし、かなりの運動になりそうじゃない?」
「まぁ確かに、毎朝かなり疲れるもんな」
慣れない頃や遅刻しそうな時は、かなり苦労させられたもんだ。
俺より家が遠いうえにしょっちゅう遅刻ギリギリになってる由真は、俺以上にこの坂の辛さをよく知っているだろう。
毎朝苦しめられているこの坂をワザとダイエットの舞台に選ぶほどだ。
由真の決意はまさに本物……って、ちょっと待て。
「じゃぁ貴明、思いっきり飛ばすから、しっかりついて来なさいよ!」
「お、おいちょっと待てって!」
いきなり走り出そうとする由真を、慌てて引き止めた。
というかお前、ついて来いって……まさか俺にこの坂を駆け登れと言うのか?
「なによいきなり。
人がせっかくやる気になってるのに」
「そのやる気なんだけどな、もう少し有意義に使わないか?」
「有意義に?
……どういう意味よ」
MTBから降りながら、こっちをジト目で睨みつけてきたりする由真。
「由真ってさ、しょっちゅう遅刻しそうになってるだろ?」
「わ、わるかったわね。
でもそれがどうしたよの」
ダイエットの出鼻を挫かれたのがよっぽど気に入らなかったのか、相当不機嫌そうだ。
でも、俺は気付いてしまったのだ。
このまま由真のやろうとしているダイエットを続けさせても、何の意味もないと。
「遅刻しそうになる度に、いつも全力で自転車飛ばしてるよな」
「だから、何が言いたいわけ?」
何がって……気づけよ。
「しょっちゅう自転車で全力ダッシュしてるなら、今ここで自転車ダッシュしても普段と何も変わらないって事になるんじゃないのか?」
「――あ゙」
テスト終了直後にマークシートの解答欄がズレている事に気がついたような、とてもショックな顔をしてくれる由真。
いつもと運動量が変わらなければ、当然ダイエットになんてならない。
それに気付かずにここまでMTBを飛ばしてくるとは……うーむ、なんとも由真らしい自爆展開だなぁ。
「ほら、とりあえず学校行くぞ。
いつまでもこんなトコでぼーっとしてるわけにもいかないだろ?」
「う、うん……」
後ろから聞こえてくる、由真がMTBを押すチェーン音がやけに哀しげだった。
ダイエットそのA ゲーセンダイエット
放課後。
「と、いうワケで貴明。
さっそく勝負よ!」
「それは良いんだけどさ……ダイエットはどうしたんだよ。
まさか朝のショックで、もうあきらめたとか?」
「何言ってるのよ、ここでこれからするんじゃない」
ゲーセンで……か?
「貴明、こっちこっち〜」
由真に呼ばれるまま、ゲーセンの中を進み
「ほら、これならかなりの運動になるでしょ?」
そう言って由真が指差した先にあったもの。
それは
「タンス・タンス・レヴォリューション……?」
ルールは簡単。
画面下部に並んだ四種類のタンスに対応して、床に十字にタンスマークのスイッチが描かれている。
画面上部から落下してくる洋服がタンスに重なった瞬間に、そのタンスに対応したスイッチを押してタンスを開き、洋服を収納すれば得点になる。
洋服がしっかりタンスと重なっていたり、連続で収納に成功すると入る得点が上がるため、ルールは単純ながらハイスコア争いは結構シビアだったりする。
だいぶ前に流行ったゲームのパクリという噂があるが、本当かどうかは良く知らない。
「つまり、これで運動しようってことか?」
「そうゆうこと。
ほら、辛いだけのダイエットは長続きしないって言うじゃない?
その点これなら、楽しく運動できると思うのよ」
まぁ確かに、運動量多そうだしな。
それに、由真とゲーセンで勝負ってのも春休みぶりだし、こういうのもアリかもしれない。
「と、言うワケで……勝負よ、河野貴明!」
「よし! 言っておくけど、負けないからな!」
数十分後
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」
「はー、はー、はー」
何戦目になるかもわからない勝負の末、いいかげん息も上がってきたころ。
俺と由真は、一旦休憩を取っていた。
「た、確かに、かなりカロリー消費するかもな」
「で、でしょ?
これなら、良いダイエットになると思うのよ」
確かにコレは、学校の坂道なんかよりはるかにキツいかもしれない。
まぁ、学校の坂道は数十分も登り続けないけど。
「じゃぁあたし、ちょっと両替してくるわね。
小銭なくなっちゃったし」
「あ、それなら俺も一緒に……」
って、ちょっと待て。
もしかしてこのダイエット、ヤバくないか?
「な、なぁ由真?
お前まさか、このゲーセンダイエットをこの先も続ける気か?」
「もちろん!
楽しくて運動も出来る、完璧なダイエットじゃない?」
確かにその点については否定しない。
だが
「由真、俺はこのダイエットの致命的な欠点に気付いてしまったんだが」
「致命的な欠点?
何よそれ、今のところ何の問題も無いじゃない。
それにいつもはこんなのやってないから、自転車ダッシュみたいに無駄とは言わせないわよ?」
いやまぁ、確かにダイエット効果はあるんだろうけどさ。
「由真、サイフの中身は無限じゃないんだぞ?」
「――あ゙!」
タンスゲームは一戦=一曲が約5分。
一日に30分遊んだとして、6回で約600円。
それを一ヶ月続けると、一日あたり600円×31日で、えーっと……18600円か。
「由真、楽しく続けられるってのは大事と思うけど、もう少しお金のかからない方法でやらないか?」
いくらなんでも、毎日ゲーセンに入り浸っていたらあっというまに破産してしまう。
体と一緒にサイフもダイエットなんて、冗談じゃない。
「う、うぅ〜……
こ、これで勝ったと思うなよぉ!!」
誰が何に勝って、由真が何に負けたのかはさっぱりわからないが。
とりあえずこのダイエットもダメなようだ。
ダイエットそのB カプサイシンダイエット
「じゃじゃ〜ん!」
由真のダイエットに巻き込まれてから二日目。
いきなり学食に呼び出された俺を待っていたのは、大量のデストラを抱え込んだ由真だった。
……あれ、まだ売ってたのか。
っていうか凝りずに買ったのか、由真。
「愛佳からね、いいこと聞いちゃったのよ。
唐辛子に入ってるカプサイシンっていうのに、ダイエット効果があるんだって」
それは俺も聞いたことがある。
たしか、脂肪を燃焼させるとかそんなような効果があるらしい。
「って、普通にトウガラシの入った料理とか食べればいいんじゃないか?」
という、俺の素直な疑問に由真は
「甘いわね、河野貴明。
ほら、ここ見てよ」
そう言って、袋の一箇所を指差してきた。
「『期間限定・死神印のデストラップスペシャル・世界一辛いトウガラシ、ハバネロを使用』……?
えーっと……?」
何が言いたいのかよくわからず、首をかしげていると
「普通のトウガラシより辛いってことは、普通のトウガラシより辛さの成分とかが詰まってるってことでしょ?
なら、カプサイシンっていうのもたくさん入ってるんじゃないかなって思ったのよ」
なるほど。
つまり、密度が高ければそれだけダイエット効果も高いと踏んだわけだ。
「さぁ、勝負よ貴明!」
「なんの勝負だ一体」
前に悲惨な目にあってるというのに、なんで懲りないんだろう。
まぁ、考案したダイエットが二つもダメになって、焦る気持ちもわからなくは無いが。
「はい、これが貴明の分。
ちゃんと全部食べるんだからね」
そう言って、俺の前にデストラの袋を置き始めた。
俺の前のテーブルに置かれたデストラは全部で5袋。
これを……全部食べろと?
「ゆ、由真、ちょっとキツくないか?
いきなり5袋なんてヤメて、今日は1袋か2袋くらいで――」
「グズグズしないの。
早くしないと昼休み終わっちゃうじゃない」
聞く耳持たず、ですか。
しかし、デストラの期間限定モノか……
ダイエットする必要は全く無いが、この限定版デストラには少し興味をそそられる。
通常版でも被害者続出のこのお菓子、そのスペシャル版とくればはたしていかなるものか。
そう思いつつ、少量をつまんで口に放り込むと
「……くぁ〜!
あ、後から来るなコレは……」
最初は大したことないのだが、後からじんわりと口の中に辛さが広がってくる。
これは……通常版よりタチが悪いかもしれない。
「〜〜〜!!」
目の前では、一気に大量に口に入れたのか由真が悶えていた。
って、そうか。
由真はコレの食べ方知らないんだっけ。
「そりゃキツいだろうなぁ……」
「は、はんはひっは?」
「『何か言った?』って言ったのか?
別に何も言って無いから気にするな」
「……よふわはっはわえ」
今のは『よくわかったわね』だろうか。
確かに、我ながらよくわかったものだ。
「う、うあぁ〜〜!」
「おいバカ、何で一度に大量に食べようとするかなお前は!」
「はわあああああ!!」
ほんと、なんで懲りないかなぁ……
「わ、わへうふぁ〜!」
「負けるか〜じゃなくて、少し落ちつけ!
あと一度に大量に食べようとするなっ!」
「おふひはは、ほーおははあひ!」
「臆したか河野貴明って言われても、これはそんなにガツガツ食べるものじゃ――」
と、こんな騒ぎを続けながらも食べ続け……
「は、ははひぃ〜」
「おぉ、凄いな由真。
あとちょっとじゃないか」
あれだけあったデストラもすでに未開封のものはなく、由真の前に残ったわずかな分が最後となっていた。
何で俺が先に食べ終わってるのかと言うと、由真が一度に大量に食べては悶えている間に俺がチマチマと食べ進めた結果こうなったのだ。
ウサギとカメという昔話があるけど、まさにあんな感じである。
「お、おーひ……」
性懲りも無く一気に食べようというのか、由真は残った分をかき集め始めていた。
まぁ、これで由真も少しは気が済んだだろうか。
カプサイシンがどれだけダイエットに効果があるのかは知らないけど、これだけ食べたなら少しくらい体重が減っても……
「ん?」
ちょっとまて。
いくらなんでも、ちょっと食べ過ぎじゃないか?
しかもデストラって、よく考えるとスナック菓子なわけで……
「……」
恐る恐る、デストラの袋の裏側――栄養成分表を見てみると
「うわ、1袋で320キロカロリー!?」
俺達がやっているのがダイエットとであるという前提を覆すようなその表示に、思わず声を上げてしまった。
「は、はうわわわわああああああ!!!!」
「由真? いったいどうし――」
俺に続いて突然上がった由真の声に顔を上げると
「……あ」
由真が、今までに無く顔を赤くし悶え苦しんでいた。
さては俺の声、あるいはカロリーの多さに驚いて、口に入れてたデストラを一気に飲み込んだな。
「って、そんなこと考えてる場合じゃないだろ。
待ってろ、すぐに水を持ってきてやるから!」
「ひぃ〜ん」
辛さで悶えているのか、それともすでに泣いてるのか。
よくわからん声を上げる由真に、急いで水を手渡し
「ぷはぁっ!
は、ははひははひー!!」
一気に飲み干してなお、「辛い辛い」と大騒ぎを続ける由真。
そして
「ひょ、ひょ、ひょれれひゃっらほおもひゅひゃほー!!」
「いや『これで勝ったと思うなよー!!』って、どっちも負けだろこの場合。ダイエット失敗だし」
いつものキメ台詞さえうまく言えないまま、どこかへと走り去って行った。
なんか、前にもデストラ食べたときもこんな感じだったな……
ダイエットそのC 素直にランニング
「と、言うワケで。
普通に走るのが一番良いって結論に達したわけなのよ」
「……最初からそうしろって言っていいか?」
「ダメ」
放課後になるなり俺のクラスに押しかけ、俺の意見を容赦なく否定してくれた由真の今度のアイデアは、ごくごく普通のランニングだった。
しかもいつどこで着替えたのか、由真は既に体操服まで着て臨戦態勢に入っていたりする。
放課後になってすぐに来たんだから、着替える時間なんてないはずなんだけどな……
「グラウンドは運動部が使ってるから、この中庭のあたりを適当に往復しようと思うのよ」
「いや、それ自体は全然かまわないんだけどさ」
確かにここなら人もあまり通らないし、それなりにスペースもあるから走り回るには十分だろう。
だが
「俺まで走る必要はあるのか?」
昼にまともな食事をしていないせいか、あまり運動したくないんだが。
そう渋る俺に、由真は腰に手を当てて威張るようなポーズをとりながら
「貴明だってデストラ5袋も食べたんだから、少しは体を動かさないと太るわよ?」
「食べさせたのもお前だろうが」
まぁ確かに、太る可能性については否定しないが。
デストラ一袋で320キロカロリー。
茶碗1杯分のご飯が確か160キロカロリーくらいだから、5袋食べれば10杯ぶんだ。
たった一回でそんな大事になるとも思えないが、体に良くない事だけは確かだろう。
「ほら貴明、何往復できるか競争よ!
よーいどん!」
「え、ま、待てって!」
俺が制服を着ているのもお構い無しに、いきなり勝負を開始されてしまった。
慌てて走り出すが、とても由真との距離を縮められそうにはない。
というか
「由真のヤツ、全力疾走してないか?」
最初に回数を稼いで俺を引き離すつもりなのか、それともたくさん走ればたくさんカロリーを消費すると思っているだけなのか。
どっちにしても、ダイエット向きの走り方ではない気がする。
「なんであいつは、そうムキに、なるのかなっ!」
急に走ったせいで上がりきった息を無理やり整えながら、由真の背を追い続け――
「は?」
一瞬、目の前で何が起こったのかわからなかった。
「お、おい由真、どうしたんだ!?」
「うぅ〜……」
俺はあわてて由真の隣にしゃがみこむと、由真の顔をのぞきこんだ。
前を走っていたはずの由真は突然その場に崩れるようにしゃがみこみ、そのまま立ち上がる様子も見せずにジッとうずくまっていたのだ。
「おい、由真!」
少し青ざめた顔をした由真は、俺の呼びかけに
「き、気分悪い……」
弱弱しく、そう答えた。
「立てるか? なんなら、保健室までおぶっていって――」
「だ、大丈夫。そこまでひどくないし」
そういってフラフラと立ち上がった由真に付添いながら、俺は保健室に向かったのだった。
「うぅ〜……」
「なんだ由真、お前まださっきのこと気にしてるのか?」
「あたりまえじゃない、普通は気にするわよ!」
紅い空を眺めつつ、帰りは下りの通学路。
いつもの元気はどこへやら、空にも負けないくらい顔を真っ赤に染めて、由真は俺の隣でションボリとうなだれていた。
「まぁ、まさか原因が『昼飯ちゃんと食べなかった』だなんて、普通思わないもんなぁ」
「だから言うなぁ・・・・・・」
恥ずかしいのか情けないのか、ボソボソと抗議してくる。
まぁ、気持ちはわからなくもないけどさ。
由真の不調の原因、それはさっきも言った通り「昼ごはんをちゃんと食べず、そのうえ急に激しい運動なんてしたから」というものだった。
デストラを大量に食べたと言えば確かに食べたが、あんなスナック菓子、それも唐辛子を大量投入してあるようなシロモノを一度に大量に食べるたら具合が悪くなって当然だろう。
つまり結局はいつもの通り、由真が自爆しただけ。
「これにこりたら、変にダイエットなんてしようとしないで、健康的な生活を送るんだな」
俺の一般的かつ常識的な発言に、しかし由真は
「何言ってるのよ。ちゃんと体重が減るまで、ダイエットは続けるんだから」
どうしても体重が気になるらしい。
まったく、どうして女の子ってそんなに体重のコトを気にするんだか。
「だいたい由真、増えた増えたって言ってるけど……実際のところどれだけ増えたんだ?」
「女の子にそーいうことを聞くな」
「いや、それくらいはわかってるんだけどさ……」
確かに女の子に体重の話題は厳禁というのはわかっているが、どうしても由真の体重がそんなに増えたようには見えないのだ。
変な食生活を送ったりするほうが、よっぽど体に悪いと思うんだが……
「まさかとは思うけど、1キロとかそんなもんだったりしないよな?」
「え゙」
俺の冗談に、ビシッと音を立てそうな勢いで凍りつく由真。
ってマジかよ……
「あ、あのさぁ由真。
一応まだ成長期なんだし、1キロ程度の上下ってただの誤差じゃないのか?」
「誤差だろうとなんだろうと、増えたてるものは増えてるの」
いや、だからさぁ
「そりゃ、体重以外の数値が全部変わらないままで増えたって言うんなら太ったんだろけどさ。
身長とか増えてなかったのか?」
「……っ!!」
お、おいおい……まさか、本当にそうなのか!?
どっちかっていうと冗談で言ったんだけどな。
「由真、まさかとは思うけど……」
「そ、そういえば、身長が160に届いてたかも……」
どうやら、本当にそういうオチらしい。
「つまりアレか。
この二日間、由真は全く必要のないダイエットをしていて、なおかつ俺もそれに巻き込まれたと」
「う、うぅ〜……」
よっぽどショックだったのか、言い返す余力もないらしい。
そりゃそうだろう。
あれだけ「ダイエットだダイエットだ」と騒いでおいて、そもそもダイエットする必要すらなかったなんてオチだったんだから。
もしかしたらコレ、歴代の中でも最大級の自爆かもしれない。
……由真には悪いけど、ちょっと笑えるかも。
「――めん」
「んあ?」
由真が俯いているのをいいことにバレないようにこっそり笑っていると、ボソボソとした由真の声が耳に入った。
「わるい、ちょっと聞いてなかった。
で、どうした?」
「……ごめん」
いや、なぜ謝る。
わけがわからず、返答に困っていると
「だから、その……あたしの都合で必要のないダイエットにつき合せたわけだし。
いや、貴明は最初からダイエットする必要ないんだけど、でも――」
あぁ、なんだそんな事か。
「言いたい事って、それだけか?」
「え? あ、うん…」
俺に文句でも言われると思っているのか、由真の姿はまるで怯えた子リスかなにかのように縮こまっている。
……やれやれ。
「ほら、いつまでも座ってないで、アイスでも食べに行こうぜ?」
「……へ?」
まるで意外なものを見るかのように、由真は俺を見上げてきた。
そして
「怒って……ないの?」
「な〜んにも」
実際ホントに気にしていないのだが、どうも由真はまだ気にしているらしい。
不安そうな瞳のままでジッとこちらを見上げ続ける由真に、俺は自分の気持ちを伝えようと素直に
「怒るも何も、由真と一緒にいてドタバタ騒ぎになるのなんていつもの事だろ?
いちいち気にしてないって」
「なっ――ちょ、ちょっと待った!
それどういう意味よ!」
……まずい、どうやら素直に言いすぎたらしい。
ギアがロウから一瞬にしてトップに切り替わったかのような勢いで元気になった由真は、まさに一瞬でMTBにまたがっていた。
「お、おい由真、ちょっと待てって。
話せばわかるって、話せば」
「ふっふっふ〜」
今までの落ち込みようはどこへやら。
「も・ん・ど・う・む・よ・う・!」
ガッ
「うおぉっ!?」
ペダルを踏み込む音と共に、今まで俺が立っていた場所をMTBが猛スピードで駆け抜けてゆく。
駆け抜けたMTBはすぐにその場で停止し、そのままこちらに振り向くと
「アイス屋まで競争よ!
負けたほうはアイス奢りで」
「え、いや、競争ってお前だけMTB――」
俺の抗議も聞かず、まるで花の咲いた瞬間のようなとても良い笑顔を俺に向けて
「よーいどん!!」
「おい待てって!」
すっかり元気になってしまった由真と、再びしょうもない勝負が始まった。
きっとまた、明日も二人でバカなことして自爆して。
ショゲたり巻き込まれたり失敗したり。
でも、笑って許して支えあって。
無駄という階段を積み重ねて登っていく。
明日へ、未来へ、夢へ向かって。
だから――
「……で、由真。
せっかくいい話っぽくまとまりそうな雰囲気なのに、突然止まって何やってるんだ?」
「パ、パンクした……」
いつもの酷使に昨日の自転車ダッシュで追加ダメージ与えて、急加速&急停止でトドメ刺したか。
「なんでオチをつけるかな、お前は」
「好きでこんなことしてるんじゃないわよ!」
こんな無駄も、ちゃんと未来に繋がって……
繋がってる……よな?
後書き。
こんにちは、お久しぶり、はじめまして。
二次創作小説図書館どんぐり管理人の綾崎水月です。
昨年の8月から更新が止まって以来、実に8か月ブリともなる新作はこんなもんでした。
内容的には「全然特別じゃない貴明と由真の日常生活(ごく一部)」という感じです。
ゲーム本編のような大層なはなしではなく、ストーリー途中のしょーもないオチのつくようなお話。
実は綾崎、あーいう由真のしょーもない話が好きだったりします。
突然豆もやしの話をしてみたり、突拍子も無い方向に発想を飛ばしたり。
あのゆる〜い雰囲気を書きたいなぁ、と思って書いてみたのですが……ちゃんと書けてるかどうかは謎。
さて、どーでも良い裏話でも。
・デストラのカロリー
デストラのカロリーは「暴君ハバネロ」を基準に考えております。
参考に買ってきた「暴君ハバネロ」の栄養成分表によると「エネルギー・317.3Kcal」だとか。
端数が面倒&計算がラクなのでデストラは一袋320Kcalとしましたが、どのみちダイエットに使えそうな代物ではありません。
なお、由真のように一度に大量に口に入れて勢い余って飲み込むというのも好奇心から試してみようかと思ったのですが、さすがに覚悟ができず断念しました。
本当にやると、どーなるんだろ……
ちなみに、「暴君ハバネロ」を買ってしまった綾崎ですが、辛いのとか大の苦手です。
とはいえ捨てるのもなんなのでやむなく食べた結果、後で気分が悪くなったのはここだけの秘密。
デストラで気分が悪くなれるというコトも、ついでに実証しました(泣