夏祭りの小さな夢

 

 

 

 

「ん〜っ、やっぱり夏といえばお祭りよね!」

 

 夏休み中ごろ、俺と由真は近所の河原で行われる夏祭りに繰り出していた。

 祭り特有の空気と音楽に気分を盛り上げられたのか、由真はいつになく楽しそうだ。

 

「あんまり急いで転ぶなよ?」

「子供じゃないんだから大丈夫よ。

 だいたい、転んだらせっかくの浴衣が汚れちゃうじゃない」

 

 今日の由真はいつものような動きやすい服ではなく、青い浴衣を着ていた。

 待ち合わせに遅刻し、浴衣を着ているためか徒歩で走ってきた由真は「おじーちゃんが『どうしても着ていけ』って言って、聞かなかったのよ」と説明してくれた。

もっとも、数日前にバッタリ出くわしたじーさんから

 

「由真が『どうしても新しい浴衣がほしい』と言って聞かなくてのぅ。

 買い物に丸一日振り回されてしまったわい…」

 

 と、疲れた顔で聞かされていたりするのだが。

 一瞬見惚れてしまったという事実は…由真には黙っておこう。なんかくやしいし。

 

「で?今日は何の勝負をするんだ?」

 

 由真の事だから、どうせ射的か何かで勝負を挑んでくるに違いない。

 そう踏んでの俺の発言に、しかし由真は

 

「勝負?そんなのしないわよ」

「……はい?」

 

 あまりにも予想外の返事に、思わず言葉を失ってしまった。

 

「今日はね、別にやろうと思ってたことがあるの。

 貴明、あたしの言った事、ちゃんと守ってるでしょうね?」

「あぁ、言われたとおり何も食べてないけど…」

 

 由真から祭りに行くにあたって言われた事。

 それは「先に待ち合わせ場所に来ても、何も食べない事」というものだった。

 正直、意味がわからない。

 

「なぁ、なんで何も食べずに待ってなきゃいけなかったんだ?」

「それはねぇ……」

 

 俺の問いに由真はニッと笑い、言い放った。

 

「お祭りの屋台の食べ物を、全種類制覇するためよ!」

 

…………………………

よけいにワケがわからなかった。

 

「だから、屋台の食べ物を全種類食べたいのよ」

「いや、それくらいはわかるけどさ……なんで?」

「食べてみたいから」

 

 由真の答えはこれ以上ないくらい簡潔だった。

 

「前に何度かやってみたんだけど、どうしても成功できなくて。

 で、今年こそ全種類制覇したいわけよ」

「全種類って……結構あるぞ?」

「大丈夫よ、あくまで全『種類』制覇なんだから。

 ホラ、屋台はたくさんあるけど、結構同じ物を売ってたりするじゃない?」

 

 まぁ、確かに。

 ワタアメなんかそうだよな。

 けど、やるにしても他に問題はある。

 

「カキ氷にしろジュースにしろ、やたら種類多いだろ?

 例えばカキ氷だと、イチゴにブルーハワイにレモンに……って感じでさ」

「あぁ、それなら大丈夫。そういうのは全部まとめて『一種類』だから」

 

 あぁ、カキ氷全体で一つのグループなワケか。

 確かに、カキ氷をシロップの種類ごとに食べたりしたら、それこそお腹を壊すに決まっている。

 由真もソレくらいは考えていたようだ。

 けど、もう一つ気になる点が。

 

「太るぞ?」

 

 女の子にこういう事を言うのはさすがにどうかと思うけど、一応聞いておいた方がいいだろう。

 由真ってしょっちゅう自爆するし。

 だが、俺の心配をよそに由真は平然と

 

「大丈夫。あたし、太らない体質だから」

 

 と答えてくれた。

 でもそれって、毎朝MTBを全速力でカッ飛ばしているから太らないだけなんじゃ…?

 

「ほら、はやく行くわよ!

 売り切れで制覇不可能なんて冗談じゃないんだからね!」

 

 というわけで、今年の夏祭りは由真の妙な企画に付き合う事となった。

 

 

 

 

 

甘いものや味の濃いものを先に食べると後がツラいから、という由真の意見で、最初は軽めにスイカやえびせんべい(河童じゃなくて薄っぺらいヤツ)等をクリアし、今は二人で焼きそばを攻略中。

あくまで種類さえこなせればいいらしく、俺と由真で同じものを分けて食べて、一人当たりの食べる量を減らすという方法をとった。

 というか、由真も最初からそのつもりで俺を巻き込んだのだろう。

 

「よーし、焼きそばクリア!」

「意外と順調だな。この調子だと、花火が始まる前に終わるかもな?」

「そんなに簡単にクリアできたら、貴明に手伝ってもらってないわよ。

毎回途中までは調子いいんだけど、後のほうになるとだんだんツラくなってくるんだから」

 

そりゃそうか。

由真一人でクリアできるなら、とっくにクリアしてるはずだもんな。

 

「ほら、さっさと行くわよ。

 のんびり時間かけてると、それだけでキツくなるんだからね」

「はいはい……ん?」

 

 一瞬由真の後ろ姿に、なにか違和感……とも違うが、そんなような何かを感じた。

 妙に気合が入っていると言うか、気迫がこもっているというか……

 いや、そんな生ぬるいものじゃない。

何かもっと大切なものを抱えているような――

 

「スキありっ!」

「ふもがっ!?

 

 考え事をしていたら、いきなり口に何かを突っ込まれてしまった。

 これは……アメリカンドッグ?

 

「ほら、何ボーッとしてるのよ。

 さっさと片付けないと、だんだんお腹いっぱいになってくるって言ってるでしょ」

 

 俺の口にアメリカンドッグを押し込んできた由真は、いつもの由真だった。

 さっき感じた何かは――気のせいか何かだったのだろう。

 一気にネジ込まれたアメリカンドッグは、元々小さめの物を買ってきたのか、すでに半分くらいまで減っていた。

 その半分をはもはもと頬張る由真。

 って、よく考えるとコレって間接じゃ……

 

「ん?どうしたの貴明。顔赤いわよ?」

「あ、いや、その――」

 

 どうやら由真は全種類制覇にムキになっているせいで、その事実に気づいていないらしい。

 由真にも教えておいてやるべきか、でも教えたら二人して照れて、結局制覇できなくなりそうだし……

 別に俺は全種類制覇したいわけじゃないんだけどさ。

 

「いきなりアメリカンドッグなんか突っ込まれたから、喉に詰まらせかけたんだよ」

 

 テキトーなウソでごまかしておいた。

 

あ…ゴメン。大丈夫?

なんなら、ちょっと早いけどジュース買って飲んじゃおっか

 あーいうのって、本当は後に回したほうがいいんだけど……」

「いや、別にもう平気だから……」

 

 とりあえず、ごまかせたようだ。

 けど、何となく気になる事があった。

 

「なぁ由真。なんでそんなに、全種類制覇したいんだ?」

「え?」

 

 俺の問いの意味がわからなかったのか、キョトンとした顔をする由真。

 

「だから、どうして全種類制覇にそこまでムキになるのかな?って思って

 

 すでに何度か全種類制覇に挑み、失敗していると言ったのは由真本人だ。

 確かに由真は負けず嫌いではあるが、一度負けた勝負でリベンジを挑んできた事はほとんどない。

 その由真が何度も挑戦しているというのが、俺には珍しく思えたのだ。

 

「え、えっと、それは、あー、その……」

 

 しばし口ごもる由真。そして

 

「わからないわよ、そんなの」

「わからない?」

 

 理由はよくわからないのにムキになるって…なんだそりゃ。

 

「自分でもよくわからないのよ。

 ただなんとなく、どうしても一回制覇してみたいだけで…」

「理由もないのにか?」

「ないんじゃなくて、わからないのよ。

 それとも貴明、コレやるのが嫌なの?」

「いや、別に嫌なわけじゃ――って、そういう問題じゃなくて」

 

 なんでただの何気ない質問で、ケンカ寸前になってるんだ。

 由真を怒らせるつもりはないし、俺が嫌がっていると思われるのはさすがに困る。

 けど、なんで由真がなぜここまでムキになるのか、さっぱりわからない。

 そう悩んでいた時だった。

 

「あれ?由真に貴明君?」

 

 こののんびりした声は――

 

「小牧さん?」

「愛佳?」

 

 俺と由真の視線の先にいたのは、やはり「委員ちょ」こと小牧さんだった。

 いや、俺は「委員ちょ」って呼ばないけどね。

 

「どう由真?今年は全種類制覇、上手くいきそう?」

 

 ……ちょっと待て。

 なんで小牧さんが全種類制覇の事を知ってるんだ?

 そう思っていると、小牧さんは俺の考えを読んだかのように

 

「去年は、あたしが由真と一緒に挑戦したんですよ。

 失敗しちゃいましたけどね」

 

 そう言ってテヘッと笑う小牧さん。

 

「去年のは、失敗しない方がおかしいけどね」

 

 あきれたような顔で、由真が続ける。

 

「おいしいからってリンゴ飴いくつも食べたら、全種類制覇する前にお腹いっぱいにもなるわよ」

「リンゴ飴って、そんなにいくつも食べられるものじゃないだろ」

「しょうがないじゃない実際、愛佳一人で3個くらい食べちゃったんだから」

 

 3個!?

 それ結構キツくないか?

 一体あの小柄な体のどこに…と思って小牧さんの方を見ると

 

「あの時は幸せだったなぁ…」

 

 小牧さんの視線は、遠い別世界を――否、去年の夏祭りを見ていた。

 

「次の日お腹壊しちゃったけど、おいしいお菓子をたくさん食べられたし」

「お菓子好きにしても、お腹壊すまで食べてどうするのよ」

 

 完璧にあきれ返った由真に、小牧さんは

 

「幸せだったからいいの。

 なんていうか、夢が叶ったーって感じがして最高の気分だったんだから」

 

 ……え?

 今、何だって?

 「どんな夢よそれは」とつぶやく由真の顔を見た瞬間、何となくわかった気がした。

 もしかして、由真がムキになっているのは――

 

「由真!」

「え?な、なによいきなり……」

 

 突然呼ばれた由真は、うろたえ気味に俺を見る。

 その由真に俺は

 

「さっき、あんまり時間置くとそれだけでお腹いっぱいになってきちゃうって言ってたよな?」

うん、確か『マンプクチュースー』がどうとかで、お腹いっぱいに感じるらしいって聞いたんだけど

「なら――」

 

 由真の手を取り、俺は

 

「早く続きを始めよう。

 今年は絶対に、成功させるんだからな」

「え?確かに成功はさせたいけど……

 どうしたの?急にヤル気だして」

「別になんでもないって。それより早く行こう」

 

 小牧さんに挨拶し、由真の背を押そうとする。と、

 

「河野くん」

 

 小牧さんに呼び止められた。

 振り返った俺に、小牧さんは

 

「由真の事、よろしくね」

 

 そう言い残し、俺の返事も聞かずに去っていった。

 ……小牧さん、もしかして全部わかっていた上で、俺にヒントをくれたのかな。

 

「貴明ーっ!

 続きやるっていいだしておいて、何ぼーっとしてるのよ!」

「ゴメンゴメン、今行くって」

 

 うん、小牧さんならありうるかもしれない。

 今度きちんとお礼を言っておこう。

 そう思いながら、俺は由真と全種類制覇を再開した。

 

 

 

 

 

 タコ焼き、焼き鳥、お好み焼き、ワタアメ、饅頭、かき氷。

 主食っぽいものから、だんだん甘いものへと移って行く。

 

「由真、チョコバナナって普通のとイチゴチョコのとあるけど、どっちがいい?」

 

 さっき食べたかき氷は、案の定イチゴ味。

 だったらやっぱり――と思って聞いてみたのだが、俺の「由真=イチゴ」という考えが由真の気に触ったらしい。

 

「びたぁちょこ」

 

 あさっての方をむきながら、そうつぶやく。

 由真なりにイジけた態度をとっているつもりなのだろうが…

 

「わかった。ビターのがあるか聞いてみる」

「わ、わーっ!ウソウソ、イチゴのヤツにしてー!」

 

 俺が本気で買ってきそうなそぶりを見せたものだから、変な意地を張っている場合ではないと思ったようだ。

 ビターのなんてどう考えても売ってないと思うんだけどね。

 買ってきたイチゴチョコバナナを由真に渡しつつ、食べた種類を指折り数えてみる。

 

「由真、結構食べた気がするけど、まだ何か残ってたっけ?」

 

 俺にはこれ以上、屋台で売っている食べ物を思いつかなかった。

 だが由真は

 

「何言ってるのよ。まだラスボスが残ってるじゃない」

 

 ラスボス?

 そんなたいそうなものがあったっけ?

 何も思い浮かばず、頭をひねっていると

 

「貴明…さっき愛佳もいってたじゃない。

 ほら、あそこで売ってるでしょ」

 

 一人で食べきってしまったチョコバナナの棒で指した先。

 そこで売っていたのは

 

「あぁ、リンゴ飴ね」

 

 そういえば、さっき話に出てきていたっけ。

 確かに、リンゴ飴はこの競技のラスボスというに相応しい食べ物だろう。

 他の食べ物に比べて食べごたえあるし、表面を飴でおおっているからそれだけでも結構腹にたまる。

 それを一人で3つも食べた小牧さんって、一体何者……?

 

「ほら、早く買いに行くわよ。

 多分アレで最後だから」

 

 由真に腕を引っ張られ、リンゴ飴を売っている屋台へ。

 

「すいませーん、リンゴ飴一つー!」

「ん。よっち、リンゴ飴一つ……あれ?」

 

 注文を受けていた女の子が、俺の方を見る。

 って、この子!

 

「こんばんは、センパイ」

 

 やっぱり、このみの友達のキツネっぽい『ちゃる』っていう子だ。

 っていうことは、今リンゴ飴作ってる子は

 

「あれ?河野先輩じゃないっスか!」

 

 キツネとタヌキに、俺は片手を上げて挨拶する。

 

「貴明、この子達知りあい?」

「ん?あぁ、由真は会うの初めてだっけ。

 このみの友達で、中学校のときの後輩だったんだ」

「吉岡チエッスよ。よろしくっス」

「山田ミチルです。よろしく」

 

 由真の自己紹介を聞きながら、俺はリンゴ飴を受け取る。

 と、急にキツネっ子が不思議な顔をしながら

 

「なんで二人なのに、一つだけ?

 もしかして先輩、たかられてるのか?」

「いや、それはないから」

「じゃぁ、なんでっスか?」

 

 まぁ、二人いたら普通は二つ買うよな。

 まったく、知りあいが売り手っていうのも困ったものだ。

 知らない人なら、そんなに詮索してこないんだけど……

 チラと由真の方を見ると、「知りあいなら言ってもいいんじゃない?」といった顔をしている。

 由真は気づいてないかもしれないが、知りあいの方が言うの恥ずかしいんだけど……

 

「センパイ?やっぱり何かあるんスか?」

「あ、いや、そうじゃなくてねーー」

 

 結局俺は、全て話すことにした。

 

 

 

「…………」

「というわけで、二つも買う必要がないわけ。わかった?」

 

 コクン、とうなずくキツネとタヌキ。

 そして

 

「お二人とも、仲いいんスね」

「……アツアツ?」

 

 あぁ、やっぱり気づくよなぁ。

 この全種類制覇が、間接キスのオンパレードだって事に。

 だが、何故かそれでも気づかない由真は一人でキョトンとしている。

 

「じゃ、じゃぁ俺たち行くから。

 じゃあね!」

 

 逃げるように由真を引っ張る俺の背に

 

「仲良くするんスよぉー」

「お幸せに」

「いや、それ……ちょっと早い」

 

 ホントにヤメてくれ。めちゃくちゃ恥ずかしいから。

 

「ねぇ貴明。あたし達、あの子達に『付き合ってる』なんて言ったっけ?

 話したのって、全種類制覇の事だけだと思うんだけど」

 

 そこだけ話せば、十分わかるだろ。

 

「もういいから、さっさとそれ食べちゃえって。

 早くしないと花火始まるぞ」

「それもそうね……あ」

 

 なんだ、いきなり固まったけど。

 

「いや……なんか、お腹いっぱいになってきちゃって」

 

 そりゃそうだろうな。

 さっきイチゴチョコバナナを一人で食べきっちゃったし。

 

「貴明、悪いんだけど……」

「わかってる。

 半分俺が食べればいいんだろ」

 

 由真が差し出したリンゴ飴を受け取り、口の周りをベタベタにしながら何とか半分ほど食べてやる。

 

「こんなもんでいいか?」

「んー……ま、それくらいなら食べられるかな」

 

 そういって、俺からリンゴ飴を受け取り

 

「あ……」

「今度はいったい何だ?」

 

 再び固まった由真の顔を覗き込む。

 ……?

 暗くてわかりづらいが、なんだか顔が赤いような……

 

「た、たか……あき?」

 

 由真の顔が、ぎこちない動きでこちらを向く。

 

「ひょっとして……こ、これって、か、か、かんせ……」

 

 俺は黙ってうなずいてみせた。

 どうやら、いまさら気が付いたらしい。

 さっきキツネとタヌキにいろいろ言われたし、さすがに気が付くだろうな。

 

「貴明……もしかして、気づいてたの!?」

「もしかしなくても、アメリカンドッグ食べた辺りで気づいてたよ」

「なっ――なんでその時に言わないのよ!」

「いったら恥ずかしくて全種類制覇どころじゃないだろうが」

 

 それはそうだけど……、と由真はリンゴ飴をにらみながらブツブツ言っている。

 このままほうっておけば、いつまでも――それこそ祭りが終わるまでボヤき続けそうな雰囲気だ。

 とはいえ、花火が始まるまでそんなに時間もない。

 花火くらいはゆっくりみたいし、由真には言わなきゃいけないこともある。

 

「由真、どうするんだ?」

「え?」

 

 俺の声に、由真がリンゴ飴から眼を離す。

 

「食べて全種類制覇成功させるか、それともあきらめるか。

 どっちにするんだ?」

 

 こんな言い方をするのは、自分でも良くないと思う。

 だけど、どうしてもハッキリさせたかった。

 なぜなら、この全種類制覇は――

 

「はぁ……食べるに決まってるでしょ。

 ここまできてあきらめるのもなんか悔しいし」

 

 そう言って、赤い顔をしながらリンゴ飴をかじり始める。

 

「……そっか」

 

 少し安心しながら由真の手を取ると、俺は花火の見やすそうな場所を探し始めたのだった。

 

 

 

 

 

 空高く上っていく光の球。

 球がはじける度に夜空に咲く光の花。

 俺は黙って、由真はまたブツブツ言いながらそれらを眺めていた。

 

「……由真」

「……何よ」

「どうだった?」

「どうって、何が?」

 

 眼だけこちらに向け、聞いてくる。

 

「全種類制覇、成功させただろ?」

「恥ずかしかったにきまってるじゃない」

「そうじゃなくて――」

 

 一旦言葉を区切り、由真の方へ向き直る。

 

「初めて夢をかなえた感想はどうだ?って聞いてるんだよ」

「……夢?」

 

 俺の言葉の意味をとらえそこね、由真が顔をこちらに向ける。

 

「どうしてもやってみたくて、前から何度も挑戦してたんだろ?

 それって立派な夢なんじゃないのか?」

「あたしの、夢……?」

 

 初めて気がついたように、自分の手のひらを見つめる。

 そう。この全種類制覇は由真が無意識に、しかし始めて自分で見つけた夢だったのだろう。

 俺も小牧さんの言葉が――夢が叶ったーって感じがして、というヒントがあって、初めて気がついたのだが。

 小牧さんには感謝の言葉もないくらいだ。

 

「さっき由真に、なんで全種類制覇にムキになるんだ?って聞いたよな。

 でも、ムキになってたのは、それが由真の夢だったからだったんだろ」

 

 以前、将来の夢が見えないと言っていた由真。

 その由真が、こんな小さいものでも自分の夢を見つけたのだ。

 ムキになって当然だろう。

そう考えると、最初に由真から感じた違和感のような、まるで何かを抱えているような感じもなんとなくわかる。

 あれは本当に、自分の『夢』を抱えていたのだろう。

 

「じゃぁ……貴明が途中で急にヤル気出したのは……」

「由真が夢を叶えるのを手伝いたかったから。

 理由もなくこんなイベントに巻き込まれるのはゴメンだけど、こういう理由なら、ね」

 

 正直に言うと、最後だけはヒヤヒヤした。

 なぜなら、この全種類制覇は由真が始めて挑む夢でもあるから。

 由真が夢を叶えるのか、それともあきらめるのか。

 もしあきらめるようなら、俺は由真に少し幻滅したと思う。さすがに理由が理由だけに恥ずかしいのはわかるけど……俺も由真に気づかれないように隠してたんだから、そこはオアイコだろう。

 けど、由真はちゃんと全種類制覇を成功させた。

 

「どうだ由真、初めて自分で見つけた夢を、叶えた気持ちは」

 

 そう聞く俺に、由真は少しだけ考え

 

「……うれしいに決まってるじゃない」

 

 その言葉を聞いて、俺もすこし安心する。

これで「そんなにうれしくない」なんていわれたら、さんざん恥ずかしいのを隠していた自分がバカみたいだ。

だが、由真の言葉はまだ終わっていなかった。

 

「貴明と一緒に、叶えられたんだから」

 

 一瞬、頭の中が真っ白になった。

 由真もすぐに、自分が言った事に気がついたようで

 

「あ、いや、ちっ違う!そういう意味じゃなくて――」

 

 あわてて誤魔化しに入るが、もう遅い。

 由真の背に腕をまわし、軽く抱きしめる。

 

「ちょ、ちょっと――」

「由真」

 

 抗議の声を無視し、小さな声で囁く

 

 

 

 こうして、由真が始めて見つけた夏祭りの小さな夢は、ちょっとした騒動を伴いつつ叶えられたのだった。

 けど、別にこれで終りじゃないのも、よくわかってる。

 だから――

 

「これからも二人で見つけて、叶えていこうな。

 俺と由真との、将来の夢」

 

                              <END>

 


 

私が師と仰がせていただいているお方が行ったイベントに投稿させて頂いた、私にとって二作目となるSSです。
その際に様々な指摘を受けたのですが、修正して掲載するのも何か卑怯な気がしたので、ほぼそのままの掲載となりました。

ちなみに、「お祭りの屋台全種類制覇」というのは適当な思い付きではなく、私の実体験ベースだったりします。
当時の私には貴明のような頼れるパートナーも、愛佳のような大食い(?)の知り合いもいなかったので大失敗して翌日お腹を壊しましたが……

せっかく良いパートナーを見つけたのですから、由真には大きな夢も小さな夢も、二人で一緒にかなえていってほしいものです。

もっとも、最終目標は「かわいいお○さん」でしょうけどね。


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